通信Vol.96(2012年5月)

桜が散ったら、木々が芽吹いて山々も萌葱色になってきました。新たなことを始める人も多いと思います、私もこの春から新たな取り組みを始めました。他人の行動が気になっている時や自分の過去を振り返って懐かしんでいる時は、今の自分が充実していない時です。 
 
 先日、知り合いで仏教の布教をされている先生が、本を出版されたので今回はその紹介をしたいと思います。タイトルは「幸せのタネをまくと、幸せの花が咲く」(1万年堂出版)という本です。
 御存知の方も多いと思いますが、私の家は浄土真宗の寺で、住職という別の顔があります。私自身、仏教を毎日勉強していますし、物事の判断基準の根底に仏教の思想があります。その内容をこの通信で少しづつお話ししているのですが、仏教の教えの基礎にあたる「因果の道理」がこの本に分かりやすく教えられています。

 少しだけ内容を紹介したいと思います。
『50代の男性からこんな相談を受けました。
 前の会社が倒産して再就職しましたが、そこでは新入社員と同じですから、20歳も年下の上司から指図されたり、厳しく言われたりするそうです。それが悔しくて情けなくてつらいと言われるのです。長引く不況の中で、こういう思いをされている男性は多いと思います。
「何のために、そこまで忍耐されるんですか」と聞いてみました。「自分一人ならここまでしないけど、家にまだ高校生の子供がいるんですよ」
「立派なお父さんですね。家族のために、20歳も年下の人に頭を下げられる。本当に立派で、心の強い方だと思います」と男性を励まして、こんな歌をご紹介しました。
「花を持つ 人から避ける 山路かな」
一人しか通れない狭い山道で二人が鉢合わせになりました。一人は何も持っていませんでしたが、もう一人は両手いっぱいのきれいな花を抱えています。
こんな時「お先にどうぞ」と道を譲ることができるのは、両手いっぱいの花を抱えている人です。
もし「俺が先だ」「いや、俺のほうが先だ」とぶつかり合ったら、大事な花が散ってしまうからです。だから、大事な花を守るために、笑顔で「お先にどうぞ」と道を譲ることができるのです。
意見が衝突した時、争いになった時、意地の張り合いをやめて譲ることができるのは、守らなければならない大切な花がある人です。
「年下の上司に頭を下げるのは、あなたが弱いからでも劣っているからでもないのですよ。家族という大事な花のために、頭を下げられる心の強い方ですね」と励ますと、その男性は涙ぐみながら「そう言ってもらえるとうれしいです」と答えてくださいました。
 この男性の場合、大事な花は家族でした。(4章⑤あなたは決して、弱い、ダメな人間ではない。)』
 人生において、障害にぶつかった時、くじけそうになった時に、バックボーンとなる思想を持っているのか否かで大きな差が出ると思います。それを宗教と言うかどうかは別にして、強く生き抜く力にはなりそうです。口の中で、強そうで弱いのは歯、弱そうで強いのは舌と言われます。柔軟で強い、舌のような心を持つことが出来ると、たくましい人生が開けてくるのではないでしょうか。