通信Vol.220(2022年9月)

今回は心の安全基地というお話しをしたいと思います。自己受容を強化するためには、心の安全基地が必要になってきます。

日常生活の中で「誰かにキツイことを言われた」「ショックな出来事があった」「努力して試験勉強したのに結果が実らなかった」等々好ましくない出来事が起こった時に、夜も眠れないくらい落ち込んだり、何日も悩む人もいれば、数時間も経ったらケロッと忘れてしまう人もいます。比較的心が安定している人とそうでない人の違いはどこにあるのでしょうか。

「3匹の子豚」というおとぎ話があります。子豚の3兄弟がそれぞれ、「藁」「木」「レンガ」で家を作ります。そこへオオカミがやってきて子豚たちを食べようとします。藁と木で作った家はすぐにオオカミに壊されてしまいますが、レンガで作った家は壊されずに子豚たちを守ったというお話しです。心の安全基地がもろい人は、子豚の家のように少しずつ強くしていくことで他人に振り回されない安定した心を持つことができます。

心の安全基地を強化するためには、まず他者との間にしっかりした境界線を引くことです。境界線を引くということはどういうことかというと、一つの問題が起きた時に、それが他者の課題なのか自分の課題なのかをしっかり見極めて、他者の課題に首を突っ込みすぎないということです。

具体的な例を挙げると親が子供の進路について「貴方の学力なら○○大学へ行った方がいい、○○大学なら卒業しても就職に困らないし、学費もそんなに高くないから」とすすめたとします。本人はグラフィックの世界で仕事をしたいのでそちらの専門学校への進学を希望しています。親も子も境界線がきっちり引けていたなら、親は「自分はあなたの学力なら○○大学へ行くのがいいと思ったけど、あなたが行きたいと思う道へ進むといいよ」と子供の意思を尊重できますし、子供は「お母さんの気持ちは分かったけど、自分の将来は自分で決めるから応援してね」と言えます。親としては「子供に立派な大学へ行って、一流企業に就職して親を安心させて欲しい」という課題があります。しかしこれは親の課題(希望)であって。子供は親の希望を満足させるために生まれてきたのでも、生きているわけでもありません。時には親を失望させる人生を選ぶこともあるのです。子供としては一流大学へ進学して一流企業に就職するよりも自分の好きな仕事を選ぶことで生涯に稼ぐお金がグッと少なくなるかもしれないが、自分の好きな仕事をしたいという子供自身の課題なわけです。

会社でのケースを考えてみましょう。上司から「○○が出来ることで一人前の社員として評価する」と言われたとします。しかしそれは上司の目線からの評価基準や希望であって、自分の価値観と違うものであれば、自分の意見を伝えることはとても大切です。大切なのは上司の価値観を踏まえたうえで、自分の価値を見出していくということです。他者の満足を満たすために仕事をするのではなく、他者に貢献できているかどうかで仕事の価値を見出した方が、本当の意味でやりがいのある仕事に結びつくような気がします。一見すると「他者の満足」と「他者への貢献」って同じことのように聞こえますが実は全く性質の違うものです。例えば家庭での食事の献立をバランスの取れた健康的なメニューにするということは家族への貢献という点でとても大切なことです。一方家族の満足を優先して美味しくても体によくないものばかり食卓に並べたらどうでしょう。この場合、家族に喜ばれるのは後者の方だとしても、長期的に見れば家族が病気になったりして不幸な未来がやってきそうです。

「他者を喜ばせること」=「他者へ貢献すること」ではないということが分かってもらえたでしょうか。